美容医療業界における「プロダクトアウト」の限界

約四半世紀、美容医療業界をみてきて思うことは、まだまだ他の業界と比べて「プロダクトアウト型」の発想が強いということです。

プロダクトアウトとは、提供者側が「良い」と考える商品・サービスを起点として市場へ提供していく考え方です。

美容医療でいえば、「この美容医療機器を導入したから患者さんを集めよう」「この施術が優れているから患者さんに提案しよう」といった、クリニック側の美容医療・サービスを起点とした発想がこれに近いでしょう。

そのため、実は患者さんのニーズ・ウォンツの変化に対し、美容医療やクリニック側が十分に追いついていないのではないか?と思うことがあります。

もちろん医療ですから、患者さんの希望だけで治療内容を決めるのではなく、医師が医学的な適応を判断し、必要な美容医療を提案することが大前提です。

その一方で、今後はもう少し患者さんのニーズ・ウォンツを取り入れながら、美容医療やサービスを設計・改善していく「マーケットイン型」のクリニックにこそ、患者さんが集まるのではないかと思っています。

他業界に学ぶ!ワークマンの「アンバサダー制度」

前回に引き続き、小売業界の事例をご紹介します。

ワークマンでは、お客様参加型の取り組みとして「アンバサダー制度」を展開しています。

キャンプやバイク、アウトドアなど、それぞれの分野に詳しく、情報発信力を持つ人たちを公式アンバサダーとして認定し、製品開発などにも協力してもらう仕組みです。

ワークマンでは、アンバサダーを単なる広告塔としてではなく、製品開発への助言を行うパートナーとして位置づけています。

実際に商品を使用する人たちから「こんな機能が欲しい」「ここを改善してほしい」といったリアルな声を集め、商品開発や改善に生かしていく。

まさに、企業側だけで商品を考える「プロダクトアウト」ではなく、顧客のニーズを取り込みながら商品をつくる「マーケットイン」の好例といえるでしょう。

さらに、顧客自身が商品開発に参加することで、「企業と顧客が一緒にブランドをつくる」という関係性まで生まれています。

クリニックでもすぐに実践できる「マーケットイン」施策

この事例をみて、美容クリニックでもすぐにできる取り組みとして、以下のようなプロセスが考えられます。

・日々のヒアリングと共有

施術中など、患者さんとのコミュニケーション時間が長いスタッフに、患者さんのニーズ・ウォンツをしっかりヒアリングしてもらい、ミーティングで共有します。

「どのようなことに不満や不安を感じているのか」
「どのような美容のお悩みを抱えているのか」
「どのようなメニューがあれば受けてみたいのか」
「予約や待ち時間、施術後のフォローなどで改善してほしいことはないか」

こうした患者さんの声を蓄積し、どうすれば美容医療・サービスの質を向上させることができるかを定期的に検討します。

ただし、スタッフが行うのは患者さんのニーズや要望の把握までとし、診断や治療の適応・治療方針の決定は医師が行うことが大前提です。

・ロイヤル患者へのグループインタビュー

継続的に通院してくださっているロイヤル患者に協力をお願いし、ざっくばらんに意見を聞く場を設けることも有効です。

院内にいると、どうしても「クリニック側から見た当たり前」に気づきにくくなります。

そこで、

「なぜ当院を選んだのか」
「なぜ通い続けてくれているのか」
「他院と比べて何が良かったのか」
「逆に、どこを改善してほしいのか」

といったことを患者さんから直接聞くことで、クリニック側が認識していなかった「選ばれている理由」や改善すべき課題が見えてくる可能性があります。

そして、その声を美容医療やサービス、接遇、予約システム、情報発信などの改善に反映していきます。

・患者さんと一緒につくる症例コンテンツ

さらに一歩踏み込み、協力いただける患者さんに症例モデルとなっていただき、クリニック公式メディアで症例を紹介する取り組みも考えられます。

ただし、患者さん自身に治療効果や満足度を語ってもらう「体験談」を広告として掲載することは、医療広告ガイドライン上認められていないため注意が必要です。

一方、患者さんから適切な同意を得た上で症例写真を使用し、医師が治療前の状態、治療を選択した理由、治療内容、経過などを客観的・医学的に解説する症例コンテンツは、医療広告ガイドラインに定められた要件を満たした形で活用することができます。

単にビフォーアフター写真を見せるのではなく、

「なぜこの治療を選択したのか」
「どのような経過をたどったのか」
「どのようなリスク・副作用があるのか」
「どのような患者さんには適さないのか」

まで医師が客観的に解説することで、患者さんにとって美容医療を正しく理解するための有益な情報になります。

患者の声を「治療そのもの」ではなく「価値づくり」に生かす

ここで重要なのは、マーケットインだからといって、患者さんが希望する美容医療をそのまま提供すればよいということではありません。

美容医療はあくまで医療です。

治療の適応や方法については、医師が医学的根拠に基づいて判断する必要があります。

一方で、患者さんが「何に悩んでいるのか」「何を不安に感じているのか」「クリニックに何を求めているのか」という声は、美容医療やサービス、情報発信を改善していく上で非常に重要な情報になります。

患者さんの声を聞き、その声をクリニックづくりに反映し、さらに改善した価値を患者さんへ還元していく。

このような患者さんとの二人三脚の取り組みができれば、価格や美容医療機器だけでは差別化できない、クリニック独自の価値をつくることができるでしょう。

美容医療市場が成熟していくこれからの時代は、「何を売りたいか」から考えるのではなく、「患者さんは何を求めているのか」を起点に考える。

この「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への発想の転換が、価格競争から抜け出し、患者さんから選ばれ続けるクリニックをつくる一つの鍵になるのではないでしょうか。


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