
前回のコラムでは、クリニックをさらに成長させていくためには、「収益性」「社会性」に加えて、「教育性」が重要になるというお話をしました。
今回は、その続きです。
クリニックの規模をさらに拡大していくためには、もう一つ、「信じる」ということが極めて重要だと私は考えています。
渋沢栄一が重視した「信」
渋沢栄一は『論語と算盤』の中で、商業における「信用」の重要性を繰り返し説いています。
経営は、経営者一人だけでは成り立ちません。
患者さん、スタッフ、取引先、地域社会など、多くの人との信頼関係によって成り立っています。
つまり、経営の根底にあるものの一つが「信」なのです。
「儲」という漢字を分解すると、「信」と「者」になります。
もちろん、これは「儲かる」という言葉の語源を意味するものではありませんが、私は経営を考える上で非常に示唆的な漢字だと思っています。
人から信じられる者になること。
そして、自分自身も人を信じること。
商売や経営において、「信」がいかに重要であるかを考えさせられます。
経営者には「信じる力」が必要になる
私が考える「信じる」とは、
「自分を信じる」
「人を信じる」
「社会を信じる」
「天意を信じる」
ということです。
まず、自分を信じることができなければ、大きな意思決定はできません。
そして、人を信じることができなければ、組織を大きくすることは難しくなります。
特に、クリニックの規模を拡大していくのであれば、院長一人ですべてを管理することはできません。
分院長、マネージャー、主任・リーダー、非常勤医師、看護師、医療事務など、多くの人に仕事を任せる必要があります。
そのため、自分に自信が持てず、さらに人を信じることができない状態では、そもそも経営そのものが非常に苦しくなります。
特に、人を信じることができない先生が組織の拡大を目指すことは、私はおすすめしません。
なぜなら、組織の拡大とは、突き詰めれば「人に任せること」だからです。
「信じる」ためには教育という裏付けが必要
ただし、「人を信じる」といっても、無条件にスタッフを信じればよいという話ではありません。
「信じる」ためには、その裏付けが必要です。
そこで重要になるのが、前回のコラムでお伝えした、クリニックのバリューの浸透や職業倫理・道徳観の教育です。
人は誰しも、何かマイナスなことが起これば不安になります。
経営がうまくいかない。
売上が下がる。
スタッフが退職する。
患者さんからクレームをいただく。
思い描いていたように組織が動かない。
経営をしていれば、このようなことは必ず起こります。
そのようなときにも先生が自分自身を信じ、正しいと思う方向へ進んでいくためには、経営手法だけではなく、自分自身の考え方や道徳観を磨き続けることが重要だと私は考えています。
同じように、スタッフについても「きっと良くなる」と念じているだけで、人が育つわけではありません。
だからこそ、クリニックとして時間とお金、労力をかけて、バリューや職業倫理・道徳観を伝え続け、人材を育てていく必要があります。
教育という裏付けがあるからこそ、人を信じ、仕事を任せることができるようになるのです。
さらに成長するには「社会を信じる」
そして、さらにクリニックを拡大していくためには、「社会を信じる」という視点も必要になってくると思います。
自分たちが社会にとって本当に必要な医療を提供し、患者さんや地域のために貢献し続ければ、その価値はいつか社会から評価される。
そう信じて、より「世のため、人のため」に貢献できる大きな社会性を、ミッション・ビジョンとして掲げていくことが重要です。
一定規模までは、マーケティングや収益性を重視することで成長できるクリニックもあります。
しかし、さらに大きな組織をつくり、長期的な成長を目指すのであれば、収益性だけを追い求める経営には限界があると私は考えています。
「もっと売上を上げたい」
「もっと分院を増やしたい」
「もっと利益を出したい」
それだけでは、スタッフが長期間にわたって同じ方向を向き続けることは難しいからです。
「私たちは何のためにクリニックを大きくするのか」
その答えとなるのが、社会性を伴ったミッション・ビジョンなのだと思います。
最後は「天意を信じられるか」
そして、最後に私が大切だと思っているのが、「天意を信じる」ということです。
これは科学的に証明できるような話ではありません。
あくまで、長年さまざまな経営者を見てきた私自身の経営観としてお読みいただければと思います。
歴史に名を残した経営者や偉人の生涯を見ていると、本人の努力や能力だけでは説明しきれないような「運」に恵まれた場面があります。
もちろん、「正しいことをしていれば必ず成功する」という単純な話ではありません。
どれだけ社会性の高い事業であっても、経営判断を誤れば失敗します。
収益性も必要です。
マーケティングも必要です。
経営管理も必要です。
人材教育も必要です。
そのすべてに取り組んだ上で、それでも最後には自分の力だけではコントロールできないことが経営にはあります。
だからこそ私は、
「自分たちが目指している方向は、患者さんや社会にとって本当に良い方向なのか」
「自分の利益だけではなく、世のため、人のためになっているのか」
と自分自身に問い続けることが重要だと思っています。
「信」の先に、経営者としてのゴールがある
自分を信じる。
人を信じる。
社会を信じる。
そして、自分ではコントロールできないものも受け入れながら、天意を信じる。
そのためには、先生自身が学び続け、自らの人格や道徳観を磨き、スタッフを教育し、さらに大きな社会性を持ったミッション・ビジョンを掲げていく必要があります。
クリニックの規模が大きくなればなるほど、経営者一人の能力だけで成長させることは難しくなります。
だからこそ最後は、「自分以外のものをどこまで信じられるか」が問われるのではないでしょうか。
そして、より大きな社会性を発揮するために、自分自身を磨き、人を育て、人を信じ、社会を信じて進んでいく。
私は、その先にこそ、クリニックを成長させた先生が最終的に目指す経営者としての一つのゴールがあるのではないかと思っています。
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