最近、お客様の先生からもっともよく聞かれる質問の一つが、スタッフの仕事のベースとなる道徳観・倫理観の欠如をどうすればよいか、というものです。

ご自身や近い世代のドクター・スタッフとは異なる価値観を持つスタッフが増えていることで、従来の診療スタイルが維持できない。

「普通はそんなことを患者さんにはしないだろう」
「普通はそんな言い方をしないだろう」

ということを平気でやってしまい、患者さんからクレームが発生する。

そうした日常の出来事にイライラし、「スタッフのマネジメントはもう本当に嫌だ」というところまで疲弊していらっしゃる先生も少なくありません。

知らないのであれば、クリニックが教える

以前のコラムで、社会人として必要な基本的な考え方や振る舞いを、家庭や学校だけでは十分に身につけられないまま社会に出る人がいるのであれば、その教育の一部を担うのはクリニックだと割り切ることも必要ではないか、ということをお伝えしました。

「そんなことまでクリニックで教えなければならないのか」

と思われる先生もいらっしゃるでしょう。

しかし、「そんなことは常識だ」「普通は分かるだろう」と言っていても、本人が知らないのであれば状況は変わりません。

知らないのであれば、教える。

そして、仕事のやり方だけではなく、その土台となる「人としてどうあるべきか」まで教育していく必要があるのではないかと思います。

「論語」の「孝・悌」から人を大切にすることを学ぶ

そこで、スタッフ教育に取り入れてみてはどうかと考えているのが、「論語」です。

「論語」の学而篇には、

「孝悌なる者は、其れ仁の本たるか」

という言葉があります。

「孝」とは親を大切にすること、「悌」とは兄や年長者を敬うことです。

つまり、親や兄弟といった自分にとってもっとも身近な人を大切にし、敬うことが、人を思いやる「仁」の根本ではないか、という考え方です。

また、為政篇には、

「敬せずんば、何を以て別たんや」

という言葉があります。

単に親の生活を支えればよいのではなく、そこに「敬」がなければならない、という趣旨です。

私は、この考え方はクリニックのスタッフ教育にも通じるものがあると思っています。

患者さんを大切にしましょう。

先輩を敬いましょう。

困っている同僚がいたら助けましょう。

もちろん、こうしたことを教えることも大切です。

しかし、その根底に「人を大切にする」「人に感謝する」「人を敬う」という考え方がなければ、先生が見ているところだけ挨拶をする、患者さんの前だけ笑顔になるといった、表面的な接遇になってしまいます。

だからこそ、まずは自分にとってもっとも身近な人を大切にすることから考えてもらうのです。

学ぶだけでなく、実際に行動してもらう

例えば、「論語」の「孝・悌・仁・敬」について学んだ後、

「次回の研修までに、自分がお世話になっている人に、感謝の気持ちを一つ行動で表してみてください」

という課題を出してみてもよいでしょう。

親に電話をする。

久しぶりに実家に帰って親孝行をする。

祖父母に会いに行く。

恩師に連絡する。

日頃支えてくれている家族に感謝を伝える。

何をするかは本人に考えてもらいます。

そして、次回の研修で、

「実際に行動してみて、どのようなことを感じたか」

「今回の経験を、患者さんや一緒に働くスタッフへの接し方にどう生かしていきたいか」

について、短い感想文を書いてもらうのです。

家庭環境や人間関係は一人ひとり異なりますので、「必ず実家に帰る」「親との写真を提出する」といった一律の課題にする必要はありません。

大切なのは、「親孝行をした証拠」を提出してもらうことではありません。

実際に行動することを通じて、「人を大切にするとはどういうことなのか」「感謝や敬意を行動に表すとはどういうことなのか」を自分自身で考えてもらうことです。

接遇の前に「人としてどうあるべきか」を教える

道徳観や倫理観は、接遇マニュアルを読ませるだけで身につくものではありません。

「患者さんを大切にしましょう」と教える前に、自分は身近な人を大切にできているだろうか。

「人に感謝しましょう」と教える前に、自分を育て、支えてくれた人に感謝を伝えているだろうか。

「相手を敬いましょう」と教える前に、自分は普段から周囲の人に敬意を持って接しているだろうか。

そうしたことを自分自身で考え、実際に行動する機会をつくる。

そして、その経験を患者さんや一緒に働くスタッフへの接し方につなげていく。

私は、こうした教育こそが、スタッフの道徳観や倫理観を育てるうえで大切なのではないかと思っています。

家庭や学校で教えられているはずだから、クリニックでは教える必要がないと考えるのではなく、知らないのであればクリニックが教える。

仕事のできるスタッフを育てるだけではなく、人を大切にし、人に敬意を持ち、患者さんや仲間から信頼されるスタッフを育てる。

そのための教材の一つとして、二千年以上読み継がれてきた「論語」から学べることは多いのではないでしょうか。



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